VBAの属人化を防ぐ設計の基本

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前任者しか触れないVBAツール、どうにかしたい…」そんな悩みを抱えていませんか?

急ぎの現場対応から始まったVBAは、設計より先に手が動いてしまうことも多く、結果として属人化が進みやすい傾向にあります。

この記事では、なぜVBAが属人化しやすいのかという背景から、実際の設計の落とし穴、そしてチームで取り組む改善の視点まで、自身の失敗も交えながら整理しました。

今あるツールを“触れるもの”に変えるヒントを探ってみませんか?

この記事を読むとわかること

  • VBAが属人化してしまう典型的なパターンとその背景
  • 読まれることを前提とした設計の基本原則と具体例
  • チームで属人化を防ぐための実践的な整備ポイント
目次

VBA設計で属人化が起こる背景を整理する

VBAツールが属人化しやすい理由は、“急ぎの現場対応”が発端になっていることが多いです。

とりあえず動くものを作る必要に迫られ、設計より先にコードを書き始めてしまう。その結果、他人が読んでも流れが追えず、「あの人しか直せない」状態に陥ってしまうわけです。

さらに問題なのが、最初に書いた人が異動や退職でいなくなるパターン。残されたツールはブラックボックス化し、誰も手をつけられない。そのうち「触らないでおこう」となると、改善どころか日々の運用すら慎重になってしまいます。

このような構造的な属人化が、想像以上に多くの職場で繰り返されているように感じます。

よくある属人化のパターンと現場の混乱

属人化の典型パターンとして、

「本人しかわからない略語命名」

「シート構成やセル参照の隠れ依存」

「変数スコープの無意識な拡張」

などが挙げられます。これらは一見、効率的に見えて、他人が読むと“謎解き”になってしまう。

また、更新履歴や設計意図が残っていないと、コードの変更に対して異様に慎重になります。ちょっとした修正にもビビってしまい、周囲から「誰か◯◯さん呼んで…」という声が出てくる。

こうなるとVBAは便利ツールどころか、保守の足かせにすらなり得るのです。

「書いた本人にしか読めない」原因はどこにある?

設計書の欠如もありますが、一番の原因は「誰かに読ませる(=誰かが保守をする)つもりで書かれていない」こと。

命名が感覚的、処理が一枚岩、エラー処理も場当たり的。そういうコードは、少しでも想定外の使い方をすると途端に壊れます。

また、ロジックを“頭の中”で組んでしまい、コメントも残さないケース。これでは、あとから見たときに「なぜこう書いたのか」が読み取れません。

書いた本人ですら半年後には理解に苦しむ…なんてことも、正直よくあります(私もそんなコードを書いていました)


属人化を防ぐVBA設計の考え方

そんなVBAですが、属人化を防ぐには、「誰が読んでも大まかな意図が伝わる」ことを前提に設計を行う必要があります。

そのためには、命名・責務・分割・コメントといった基本を丁寧に整えるしかありません。派手なテクニックではなく、あくまで地に足のついた設計が求められます。

過去、自分も「あとで直せばいいだろう」と甘く見ていた部分が、数か月後に後悔ポイントになった経験があります。

コードは書いた時よりも「他人に読まれる時」の方が多いという事実を、忘れないようにしたいものです😓

命名と責務のルール

関数や変数の名前には、その役割をしっかり込めるようにします

例えば tmp, x, data1 のような漠然とした名前では、何のための値かわかりません。なるべく lastRow, customerCode, isValid など、用途を読み取れる名前にすることで、コードの理解がぐっとラクになります。

また、一つのプロシージャや関数には「一つの目的」だけを持たせることも重要です。いろんな処理を詰め込みすぎると、どこで何が起きているのか追いきれなくなります。

'顧客コードの重複チェックを行う関数
Function IsDuplicateCustomerCode(code As String) As Boolean
    Dim ws As Worksheet
    Set ws = ThisWorkbook.Sheets("顧客マスタ")

    Dim rng As Range
    Set rng = ws.Range("A2:A1000")

    IsDuplicateCustomerCode = Not IsError(Application.Match(code, rng, 0))
End Function

このように役割を絞ると、関数の意図も明確になり、再利用もしやすくなります。

処理の分割が理解を助ける理由

VBAでは、つい1つのマクロにすべての処理を詰め込みがちです。

ただそれでは、読み手が「今どの処理をしているのか」が把握しづらくなります。全体の流れを分かりやすくするには、手続きを段階に分けるのが効果的です。

たとえば、データの取得・チェック・出力などは、それぞれ別のプロシージャに分けて書く方が後から見直しやすいです。

Sub RunExportProcess()
    Dim data As Variant
    data = GetDataFromSheet()

    If Not IsValidData(data) Then
        MsgBox "データに問題があります"
        Exit Sub
    End If

    ExportData data
End Sub

処理の分割によって、テストや修正の範囲も限定しやすくなりますし、エラーの切り分けもしやすくなります。

可読性を高めるためのコメントと記述スタイル

コメントを書くときは、「何をしているか」よりも「なぜそれをしているか」に注力します。

コードそのものは読めば動作はわかりますが、意図や背景は読み取れないものです。特に例外的な処理や、暫定対応などは、後から見たときに迷わないようメモしておきたいところです。

また、インデントや改行の使い方も大切です。VBAでは強制的なリンターがないため、書き手のスタイルに依存しがちですが、少し丁寧に整えるだけで可読性が大きく変わります。

'特定条件を満たす場合は出力をスキップ(2024/11の仕様変更に対応)
If customerType = "停止中" Then
    Exit Sub
End If

見た目が整っているコードは、それだけで“信頼できるツール”に見えてくるから不思議です。


VBAの設計ルールの例と実際の落とし穴

設計ルールを決めて運用していても、「やってみたら逆に使いづらかった」という経験はあると思います。

VBAでもそれは例外ではなく、理想を追いすぎて現実とのズレが生まれることも少なくありません。

実際、私自身もルールを厳格にしすぎた結果、誰も守れなくなったことがありました。その失敗から、「設計はチームの運用に合わせて調整するべき」という学びを得ています。

共通化したつもりが逆に読みにくくなった例

「似た処理は共通化した方がいい」と思って、あらゆるマクロを一つの汎用関数にまとめたことがあります。

でもその結果、引数が増えすぎて処理の流れが読めなくなり、逆に属人化してしまいました。

'何をしているか分かりにくい共通関数の例(よくあります)
Call ProcessData("Sheet1", "Sheet2", True, 3, False)

共通化には「意味が伝わる」ことが大前提です。むやみにまとめるよりも、「これは似てるけど別物」と分けた方が読みやすい場合もあると、今は考えています。

命名規則が多すぎて破綻したパターン

かつて、変数名のプレフィックスを細かく決めすぎて、書く側も読む側も混乱したことがありました。たとえば lngCntCustomer, strNmCustDisp みたいに、型と意味を全部詰め込んだような命名。正確ではあるけど、かえって読みにくい場合があります。

ルールは「守りやすさ」と「バランス」が重要です。ある程度の曖昧さを許容しないと、現場では続きません。

あとで振り返って見直したルール修正の話

導入当初に作った命名ルールやコメント方針も、半年〜1年運用してみると、「ここは緩めた方がいい」とか「こう書いた方が分かりやすい」と気づいてくるものです。

たとえば、変数名に型や業務略語を詰め込みすぎて、読みづらくなったケースがありました。strCstCdblnFlgActv といった表記が増えると、逆に頭に入ってこないんですよね。

コメントについても、必要以上に丁寧に書きすぎて、かえって処理の流れが見えづらくなったことがありました。結局、「迷いそうなところだけ補足する」くらいがちょうどいい、という結論に落ち着きました。

ルールは変えちゃいけないものではなく、運用に応じて見直すべきです。自分たちのスタイルに合った“ちょうどいい設計”を見つけるためにも、失敗を共有しながら微調整を重ねていくのが現実的だと思います。


チームで使うVBAの整備ポイント

属人化を防ぐには、個人の工夫だけでは限界があります。やはりチームとして「どういう書き方を標準にするか」を共有する場が必要です。最初から完璧を目指す必要はありませんが、最低限の型を用意するだけでも効果はあります。

また、「誰がどのツールを作ったのか」などの履歴も、表計算の世界では意外と大事です。チーム開発とまではいかなくても、VBAを共通資産として扱う視点は欠かせません。

メンバー間で共有すべき設計の粒度

設計方針をチームで話し合うとき、「どこまで細かくルール化するか」は悩みどころです。個人的には、命名・責務・エラー処理だけは明示的に決めておくと、かなり属人性が下がると感じています。

それ以外は、メンバーの経験や好みに任せる余地を残しておくことで、「縛りすぎて誰も使えない」という事態を防げます。ルールが守られなかった理由が「現場の都合」なら、その声も尊重した方がうまく回る印象です。

「設計テンプレート」を用意するメリットと限界

汎用的な処理の雛形をテンプレート化しておくと、コードの書き始めで悩む時間が減ります。

特に、ファイル出力やエラーハンドリングなど、何度も使う処理についてはテンプレートがあるだけで属人性が下がります。

ただし、「テンプレート=正解」とは限らず、ケースによって書き換える必要もあります。強制的に使わせようとすると逆に形骸化することもあるので、あくまで“スタート地点”として扱うくらいがちょうどいいでしょう。


まとめ

VBAの属人化は、設計意識の欠如と運用現場のリアルな事情が重なって生じがちです。

命名や責務の明確化、処理の分割といった基本の徹底が、読みやすさ・保守しやすさの鍵となります。とはいえ、設計ルールは一度決めたら終わりではなく、運用の中で柔軟に見直すことも大切です。

私自身、失敗を経て「ちょうどいい設計」を模索し続けています。

属人化の解消は一朝一夕ではありませんが、少しずつでも改善することで、現場の安心感は確実に高まります。

この記事を書いた人

業務システムとWebアプリの開発に20年以上携わるフリーランスエンジニア。
製造業や物流業界のシステム保守・改修を中心に、要件定義から運用改善まで幅広く対応してきました。Laravelや業務改善、AI活用など、現場で実際に試し・使い続けている技術や設計の工夫を、トラブル対応の視点も交えてブログに記録しています。

日々の業務で直面した「困ったこと」をベースに、再現性のあるノウハウをシンプルな言葉で伝えることを意識しています。

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