UAT(User Acceptance Test)のシナリオを作成する機会は、システム導入や業務改善の現場でよくあります。
特にユーザー視点を重視する立場からすると、単なるテスト手順では済まされないと感じることが多々あります。
UATシナリオを書くときに「結局どう書けばちゃんと伝わるのか?」と感じた経験から、実際に現場で役立った考え方や書き方のヒントをまとめました。
この記事を読むとわかること
- 業務の流れに沿った、伝わるUATシナリオの書き方
- 書きがちなシナリオのミスとその避け方
- 現場で使いやすいシナリオテンプレートの構成とポイント
UATシナリオとは何か、なぜ書き方が重要か
UATシナリオは、単なる操作手順ではなく、業務の目的やユーザーの判断基準を伝える“コミュニケーション文書”です。この視点を持つことで、レビューや現場検証の精度が大きく変わります。
つまり、ただ仕様どおりに動いているかよりも「ちゃんと仕事ができるか」が焦点になります。
このため、シナリオの書き方は非常に重要です。操作手順だけが丁寧でも、業務の背景や目的が共有されていなければ、レビューの場で「これで何を確認したいの?」と戸惑わせてしまいます。
形式よりも中身、特に意図の伝わりやすさが問われるところです。
なお、UATシナリオを作る前提として「業務フローが明確になっていること」が極めて重要です。
業務の流れが曖昧なままでは、どこで何を確認すべきかも定まりません。
業務フローの可視化には、Mermaidを使った図解手法が有効で、属人化した処理を洗い出す場面でも特に役立ちます。

業務視点とユーザー体験の接点としての役割
UATシナリオは、「業務要件」と「UX(ユーザー体験)」の橋渡し的な存在です。
たとえば、受注登録のフローひとつとっても、営業視点では“早く正確に”、管理側では“記録と承認が漏れなく”という異なる価値観があります。
UATではこれらを俯瞰しながら、「このシナリオで、どの立場の誰が、どんな状況で困らないか」を意識して書く必要があります。
要件書の段階では見えにくかった“現場のリアリティ”を浮き彫りにするためのツールだと思っています。
よくあるシナリオの書き方ミスと現場でのズレ
意外と多いのが、単なる操作チェックになってしまうパターンです。
例えば、「ログインする→商品を登録する→保存する」という流れだけを書いたシナリオ。これでは、テスト担当者が“なぜそれをやるのか”が見えず、問題が起きても気づけないことがあります。
また、ペルソナが曖昧なまま書かれているシナリオも要注意です。
「誰の視点なのか」が抜けていると、確認すべきポイントも曖昧になります。そして、せっかく丁寧に書いたつもりのシナリオが、読み手に伝わらない。これは“自分の頭の中だけで完結している”場合によく起こります。
単なる操作確認になってしまうパターン
「クリックして〇〇画面へ遷移する」といった手順だけが並ぶケースでは、業務の文脈が抜け落ちがちです。
- ステップ1:管理画面にログインする
- ステップ2:「商品登録」をクリック
- ステップ3:商品名・価格を入力し「登録」ボタンを押す
このような書き方だけだと、「どんな商品?なぜ登録する?」といった背景が不明瞭です。
UATでは“目的”と“文脈”を補うコメントを加えると、確認すべき観点が明確になります。
UATシナリオの正しい書き方と考え方
シナリオを設計するときは、単に「こう動いてほしい」ではなく、「どんな入力があり」「どんな前提で」「どういう結果が望まれるか」をセットで考えます。ここに抜けや矛盾があると、結局あとで齟齬が発覚します。
特に「期待結果」は、具体的な出力だけでなく、「その結果でユーザーがどう判断できるか」に踏み込んで書いておくと効果的です。実際、そこまで書いておくことで「それじゃ業務に使えない」という声に気づける場面もありました。
一度は試して失敗した記述スタイル
以前関わったプロジェクトで、シナリオを箇条書きでテンポよく書けば読みやすいと思い、以下のようにまとめてみたことがありました。
- 前提:管理者としてログイン済み
- 操作:売上レポート画面を開く→期間を「4月」に指定→検索
- 期待結果:売上レポートに4月分のデータが表示される
一見スッキリしているのですが、「なぜ4月?」「どんなデータが必要?」といった情報が抜けており、フィードバックで「これは何を確認するためのテスト?」と聞かれがちでした。
「形式がきれいでも、意図が伝わらなければ意味がない・・」と痛感しました。

頭の中では一連の流れが再生されてるから、つい省略しちゃうんですよね。自分の脳内を一回“他人の目”で疑ってみるって大事です。
現場で使えるUATシナリオテンプレートの紹介
結局、現場で繰り返し使ってしっくりきたのは、“文脈込みで書ける”構成のテンプレートでした。
操作や入力に加えて、「確認観点」と「背景理由」を明示するだけで、共有しやすさが大きく変わります。
テンプレートはあくまで補助ですが、迷ったときに立ち返れる型があると、作業の効率と品質が安定します。特に、あとから第三者が読んでも意図が読み取れるかどうかを意識するとよいでしょう。
テンプレートの構成要素と書き方
以下は実際に使っているテンプレートの一部です。要素が多く見えますが、慣れれば自然に頭に入ってきます。
項目 | 説明 |
---|---|
シナリオ名 | 「誰が何をするか」が伝わるように具体的に書くと、一覧で見たときもわかりやすくなります。 |
背景/目的 | なぜこのテストをするのか、業務的な理由を説明します。関係者が納得しやすくなるので、「この操作が現場でどう役立つか」を意識して書くのがポイントです。 |
前提条件 | テストを始める前に、システムやデータがどういう状態であるべきかを書きます。ログイン済みとか、データ未登録など、再現性のために重要です。 |
入力内容 | テストで使う具体的なデータを記載します。後で別の人が同じテストをする時にも役立つので、わかりやすく数値や名称を書いておくと親切です。 |
操作手順 | 実際にユーザーが行う操作の流れを、画面名やボタン名も含めて順を追って書きます。箇条書きや「→」でつなぐと見やすいです。 |
期待結果 | 操作がうまくいった場合に、画面やデータがどうなるべきかを記述します。表示されるメッセージやデータ反映など、確認の基準になります。 |
確認観点 | どこを重点的にチェックすべきかをリストアップします。表示内容やデータの整合性など、チェックリストとしても使えます。 |
業務の流れをイメージしながら、「誰が何をどう確認するか」がわかるようにまとめています。
あとで読み返しても、テストの目的がすぐ伝わるのが大事です。以下に入力例を示します。
項目名 | 例 |
---|---|
シナリオ名 | 商品登録が正しく行える |
背景/目的 | 新商品を営業担当が登録し、マスタに反映できるか確認するため |
前提条件 | ログイン済・マスタが未登録状態 |
入力内容 | 商品名「ABC-100」、価格「12000」 |
操作手順 | 商品管理 → 新規登録 → 情報を入力 → 保存 |
期待結果 | 登録完了のメッセージが表示され、マスタに反映されている |
確認観点 | ①表示内容の正確性、②保存後のデータ整合性 |
まとめ:UATシナリオは“業務の再現”であり“対話のツール”でもある
UATシナリオの設計は、単なるテスト項目づくりではなく、「業務がちゃんと回るかどうか」を現場と一緒に確認していく作業です。
その意味では、完成形よりも“対話のきっかけ”としての役割の方が大きいかもしれませんね。
自分としては、綺麗なドキュメントよりも、“現場と話が弾むシナリオ”の方が価値があると感じています。