システム保守を属人化させない工夫 — 現場で効いた3つの実践

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属人化って、言葉にすればシンプルなんですが、いざ現場で直面すると本当に厄介ですよね。

私が以前関わっていた保守案件でも、「あの人にしかわからない」「とりあえず前例を知ってる人に聞いて」なんてやり取りが当たり前になっていました。

今回は、そんな“属人化まみれ”の現場で、あれこれ試しながら少しずつ改善していった実体験を、同じような悩みを抱えている方に向けてお話ししてみたいと思います。

この記事を読むとわかること

  • 属人化しやすい現場の特徴とその背景
  • 保守業務をチームで共有するための具体的な取り組み
  • 無理なく続けられる改善策のヒント
目次

なぜ属人化しやすい現場だったのか

属人化の原因をひとことで言えば、“慣習のまま業務が続いていたから、でしょうか。

誰がいつ何をやっているのかが見えづらく、それぞれが「なんとなく」やっている状態。気づけば、それが当然のようになっていました。

振り返れば、悪気があったわけでもなく、むしろ“円滑に回っているように見えた”ことが落とし穴だったように思います。ただ、それが通用しなくなったとき、一気に問題が表面化してしまいました。

無言のルールと経験頼みの運用

慣れている人ほど、暗黙の了解で動いてしまう」。これが最大の属人化要因でした。

ある日、業務アラートに対応する場面で、対応内容の詳細がどこにも記録されていないことに気づきました。聞いてみると、「いつもは○○さんがやってるから」とのこと。口頭伝承に頼った運用では、担当が変われば一気に対応が止まってしまいます。

そうした“無言のルール”は、トラブル対応だけでなく、定期メンテナンスや設定変更作業などにも多く潜んでいました。属人化の温床は、意外と足元にあるものです。

ドキュメント不足が引き起こした混乱

「一応、マニュアルありますよ」と言われて見せられたドキュメントは、数年前の日付で止まっており、現状とはかけ離れていました。

変更履歴が残されていないため、どこが誰によっていつ書き換えられたのかもわかりません。結果、作業前に必要以上の確認が発生し、対応が遅れることもありました。ドキュメントの存在は、“あるだけ”では意味がないことを痛感しました。

「これじゃ何かあったときに対応できないよね」と、チーム内でも少しずつ問題意識が高まりました。
そこで取り組んだのが、属人化を防ぐための“見える化”の工夫でした。

工夫1:ログ共有ルールで知識を可視化した

属人化を崩す第一歩として、まず着手したのが「ログの見える化」でした。とくにトラブル対応後のログや、判断の経緯などは、記録として残すことで、誰でも振り返ることができるようにしました。

最初は「書くのが手間」「読み返されない」といった反応もありましたが、フォーマットを整えるだけで、意外と浸透しやすくなりました。

「結局、あとで自分が困るんだから、未来の自分へのメモだと思って!」と説得したのをよく覚えています。最初は渋々でも、慣れたら“書かない方が不安”になってきます。

フォーマットを統一しただけで変わったこと

書く側も読む側も迷わない形式にするだけで、ハードルが一段下がりました。

【対応日時】2024/04/15 14:23
【発生内容】定期バッチの遅延アラート発生
【対応内容】対象サーバの再起動を実施
【判断理由】メモリ使用率95%、前回も同様対応で復旧実績あり
【備考】監視閾値の見直しを次回MTGで検討

このようにテンプレート化することで、「とりあえず残しておく」習慣が生まれやすくなります。ちょっとした工夫ですが、情報の断絶を防ぐには効果的でした。

「項目が少なすぎる」と思いますが、実際、このテンプレは必要最小限です。しかし、あえてこの形にしているのには理由があります。

まず、書く負担を減らすことが最優先だったからです。属人化が進んでいる現場では、「あとでログを書いておいて」と言っても、そもそも書かれないことが多々あります。だからこそ、迷わず書けるシンプルな形式が必要でした。

また、この5項目だけでも「いつ、何が起きて、どう対応して、なぜそう判断したか」といった 5W1H はきちんと押さえられています。情報がコンパクトにまとまっているぶん、読み手にとっても「確認しやすい・探しやすい」という利点がありました。

運用が定着してきたら、そこに「影響範囲」や「再発防止策」などの項目を加えることもできますが、まずは“続けられる形”でスタートすること**が、属人化を崩す第一歩になりました。

最初は面倒でも続けることで見えた成果

継続する中で、過去のログを活用する場面が増えてきました。「前回どうだった?」という場面で、根拠を持って判断できるようになりました。

それによって、対応のばらつきや、「とりあえず○○しておくか」といった場当たり的な処置も減ってきた実感があります。面倒なようで、回り回って自分たちを助ける仕組みだったんだなと思います。

工夫2:「誰でもできる手順」をあえて作った

どこの現場にもある、「これはベテランに任せておこう」という空気自体が属人化を助長する要因になります。そこで、あえて“誰でもできる”手順化を進めていきました。

「こんなのマニュアルにするまでもない」という作業ほど、実は書き起こす価値があったんです。

属人化の温床だった“ベテラン任せ”の排除

ベテランメンバーの知見を否定するのではなく、形式知として引き出す工夫をしました。

「これは説明しづらいんだけど……」という曖昧な工程も、周囲と対話しながら書き起こすことで、他メンバーでも再現可能にする。結果として、ベテランにしかできない作業が徐々に減っていきました。

「いや、それ自分が勝手にやってただけかも」と本人も驚くような“無意識の判断”が、思った以上に多かったです。

作業手順の分解と検証で気づいたこと

手順を細かく分解していくと、思いのほか“余計な操作”や“判断の曖昧さ”に気づけるようになります。

その過程で、「あれ、これって本当に必要だった?」という見直しが入ることもあり、結果的に業務のスリム化にもつながりました。形式知化は属人化防止だけでなく、業務改善にも効果があると感じています。

実際の業務を「見える化」して整理したい方は、以下の記事も参考になります。

工夫3:判断基準を共有して迷いを減らした

技術的な手順よりも、実は“判断の仕方”にこそ属人性が表れやすいものです。

とくにトラブル対応では、「どこまで確認するか」「どのタイミングで報告するか」といった判断のばらつきが、現場の混乱を招きます。

その解消には、マニュアルよりも“考え方”の共通化が有効でした。

マニュアルより“考え方”の統一が効果的だった

「このケースではまずこれを確認する」という判断のフローを可視化するようにしました。

flowchart TD
    A[異常検知] --> B{監視対象の異常あり?}
    B -- はい --> C[通信・プロセスの稼働状況を確認]
    C --> D{回復可能?}
    D -- いいえ --> E[上長へ即報告]
    D -- 一時的に回復済 --> F[再発条件の確認と記録]
    B -- いいえ --> G[通常監視継続]

このような「状況に応じた判断の目安」を共有することで、新人や経験の浅いメンバーでも、ある程度の安心感を持って対応できるようになりました。

緊急対応時のブレをなくす工夫

緊急対応ほど、「誰が出るか」に左右されると、属人化はより深刻になります。

そこで、あらかじめ“最悪ケースを想定した判断パターン”を共有することで、どのメンバーが出ても一定の品質で対応できる体制を目指しました。まだ発展途上ですが、確実に混乱の頻度は減っています。

まとめ:属人化を防ぐ鍵は“仕組み”より“習慣”

属人化をなくすには、特別なツールや仕組みよりも、日々の「ちょっとした習慣の積み重ね」が効いてきます。見える化・手順化・考え方の共有。どれも劇的な変化ではありませんが、続けることで確実に現場は変わっていきます。

やってみてよかったと思えるのは、「これは○○さんしかできない」という言葉が少なくなったこと。完璧な状態を目指すよりも、“今の現場で無理なく回せる工夫”を模索していくことが、長く続けられる改善につながると感じています。

もっと良い方法があるかもしれませんが、まずは“続けられそうなこと”から始めてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

業務システムとWebアプリの開発に20年以上携わるフリーランスエンジニア。
製造業や物流業界のシステム保守・改修を中心に、要件定義から運用改善まで幅広く対応してきました。Laravelや業務改善、AI活用など、現場で実際に試し・使い続けている技術や設計の工夫を、トラブル対応の視点も交えてブログに記録しています。

日々の業務で直面した「困ったこと」をベースに、再現性のあるノウハウをシンプルな言葉で伝えることを意識しています。

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