「業務をシステム化したいけれど、何から手をつけたらいいかわからない」――そんな悩みを抱えていませんか?
現場にヒアリングしても、明確な要望が出てこなかったり、あとから抜け漏れに気づいて手戻りが発生したり。私もそんな失敗を経験してきました。
そこで大事なのが、まず業務全体を整理する「棚卸し」というステップ。この記事では、実際の事例を交えながら、業務棚卸しの意義と進め方をわかりやすく解説していきます。
この記事を読むとわかること
- 業務棚卸しがシステム化プロジェクトの出発点になる理由
- 現場ヒアリングを成功させる3ステップと注意点
- 実際に使える棚卸しシートとヒアリングの質問例
業務をシステム化する前に棚卸しが必要な理由
業務をシステム化しようとすると、まず「どの機能を作るか」が気になりがちです。
ただ、それをいきなり決めようとすると、現場との認識ズレが起きやすくなります。特に中小企業では、業務のやり方が口頭で伝わっていたり、人によって微妙に違っていたりすることも多いものです。だからこそ、最初にやるべきは業務の「棚卸し」なのです。
棚卸しといっても、在庫管理の話ではありません。ここでいう棚卸しは「今、現場でどんな業務が動いているか」「どんな流れで、誰が何をしているか」を明らかにする作業のことを指します。
これをやらずに進めると、見えないところで抜け漏れが起きたり、後から「あれも必要だったのに」と手戻りになりがちです。
なぜ「棚卸し」が出発点になるのか
現場の声をもとにシステム化を考える場合、「現場が困っていることを聞き取る」のが起点に見えますが、それだけでは不十分です。
というのも、現場自身が“自分たちの業務を整理して説明できる”とは限らないからです。特に属人的なやり方が多い職場では、誰かにしかわからない業務があったり、担当者が思っているよりも複雑だったりします。
だからまず、全体を俯瞰することが必要です。これは「この業務はどう始まって、どう終わるのか?」という一連の流れを言語化・可視化していく作業です。こうして初めて、「どこを効率化すべきか」「どこがボトルネックか」が見えるようになります。

……とはいえ、全体を整理するのってすごく難しいですよね。「これも業務…なのかな?」と迷うこともありますし。最初はざっくりでもいいので、少しずつ形にしていけば大丈夫です。
いきなり要件を聞いても失敗する背景
以前、とある業務作業のシステム化を担当したとき、「何をシステム化したいですか?」と聞いたら、現場からは「とくにないけど、楽になったらいいね」みたいな反応でした。
そのときは「なんだ、やる気ないのか」と思ったのですが、今振り返れば、それ以前の整理が足りていなかったのです。
現場にとっても、自分たちの業務を見直す機会はそう多くありません。だから「要望ありますか?」と急に聞かれても、言語化できないのが普通です。
まずは土台をつくること。棚卸しを通じて業務を整理し、課題を共有できる土壌がないと、具体的な要件は出てきません。
現場ヒアリングをうまく進めるための3ステップ
業務棚卸しの場で現場とちゃんと話すには、単に「何してますか?」と聞いて回るだけでは不十分です。自分も最初は、ざっくり聞いて、メモを取って、あとから「これで合ってるんだっけ…?」と不安になった覚えがあります。今は「3ステップ」に分けて整理するようにしています。
最初にやるべきは「業務マッピング」
一番初めにやるべきは、業務の流れをざっくり「見える化」することです。
これはExcelでも紙でも構いません。どんな仕事があり、それぞれがどんな順番で流れているかを、矢印や図で整理します。
たとえば以下のような形です:
受注 → 出荷準備 → 出荷 → 請求処理 → 入金確認
↑ ↓
発注依頼 伝票発行
このように全体像をマップとして描くことで、話が具体的になりますし、「これ抜けてたね」と現場からも補足が入りやすくなります。頭の中だけで会話すると、どうしても漏れや誤解が起きやすいです。
ヒアリングでは「目的」と「困りごと」を分けて聞く
ヒアリングを始めると、「〇〇が面倒」とか「毎回エクセルでやってる」といった話が出てきます。
ただし、それだけを拾っても本質は見えてきません。大事なのは「なぜそれをやっているのか」という“目的”と、「何に困っているのか」という“課題”を分けて聞くことです。
たとえば、請求処理を聞くときも、
- なぜ今の手順を踏んでいるのか(目的)
- どのステップが手間・間違いが多いのか(困りごと)
というふうに掘り下げていくと、単に「システム化すれば楽になる」ではなく、「どこに課題があるか」「どの部分は残してもいいか」まで見えてきます。
図にするだけで現場が話しやすくなる
ヒアリングの中で意外と効果があるのが、話をその場で図にして見せることです。
業務の流れや情報のやり取りを、ホワイトボードやGoogleスライドに描いていく。それだけで、現場から「ここ、こうじゃない?」とリアクションが増えます。
言葉だけでは伝わらない部分も、図にすると「そうそう、それ!」となりますし、共通認識がぐっと作りやすくなります。描く力が多少ラフでも構いません。大事なのは、目に見える形で会話できることです。
実際の業務棚卸しに使えるシートと質問例
現場から業務内容を引き出すとき、「どこまで聞けばいいのか」が曖昧だと、情報が薄くなりがちです。
そこで、私がよく使っているのが、項目を決めた「棚卸しシート」です。これがあると、話す側も迷いづらくなります。
おすすめ業務棚卸フォーマット
以下のような形式で、1業務ごとに記録しています:
業務名:請求処理
担当者:経理部 山田さん
目的:入金ミスを防ぐための照合作業
手順:
1. 取引先別の売上データをExcelで確認
2. 銀行入金データと照合
3. 差異があれば営業へ連絡
困りごと:手作業が多く、確認漏れがある
このように「目的・手順・困りごと」をセットで整理すると、どの部分が課題かを把握しやすくなります。必要に応じて「関係システム」や「頻度」なども加えて構いません。
「AsIs・ToBe」を意識するだけで精度が上がる
さらに、現状(AsIs)と理想の状態(ToBe)をセットで書くと、システム化の方向性が見えやすくなります。たとえば:
AsIs:紙伝票での出荷確認が手間
ToBe:バーコードで出荷チェックし、在庫と連動
こうしたペアで記録しておくと、「今」と「目指す姿」のギャップが自然と浮かび上がります。これは要件定義にもつながる重要な視点です。
やってみて気づいた業務棚卸しの落とし穴
順調に進んでいるように見えても、意外なところでつまずくことがあります。私も最初のころは、いろんな反省がありました。特に「質問の仕方」と「棚卸しの目的のブレ」には要注意です。
現場が答えられない質問をしてしまった
「業務の目的は?」といきなり聞いたとき、「そんなの考えたことない」と困らせてしまったことがあります。
振り返れば、こちらの聞き方が抽象的すぎたんですね。相手の立場に立って、もう少しかみ砕いた表現にするべきでした。
たとえば「これは何のためにやってるんですか? 入金の確認のためですか?」と補足を入れるだけで、スムーズに話が進むことが多くなりました。質問の精度、大事です。
途中で目的がズレて混乱した反省
ヒアリングが長引くと、「あれもシステム化したい」「これも困ってる」と話が広がりすぎて、最初の目的がぼやけることがあります。途中で「で、結局何を作るんだっけ?」と分からなくなったことも多々ありました。
対策としては、「今回の範囲は出荷周りに絞って聞く」と範囲を明確にすること。
全体を見つつも、1回で全部やろうとしないことが大事です。焦らず、テーマごとに小さく回すのが結果的に近道でした。
まとめ:業務の棚卸しで得られる3つの安心感
棚卸しがきちんとできると、「何がどう動いているか」が見えるようになります。
まず、自分自身が「今どこに手を入れるべきか」がわかるようになるのが一つ目の安心。
次に、現場も「ちゃんと話を聞いてくれている」と感じやすくなり、自然と協力的になってくれる。これが二つ目の安心感です。
そして三つ目は、関係者の間で「業務の全体像を共通言語で話せる」ようになること。これは設計や外注、社内調整の場面でも大きな力になります。
地味に見える棚卸しですが、実はプロジェクト全体を支える要のステップだと思います。